ギャンブルなんて、絶対やらなそうな奴なのに、何故かそいつはそういう危険が付きまとう
ようなことばかりやりたがった。
「いいだろう。実際強いんだから」
「ま、ね」
ルルーシュは無駄に整った顔で笑って、無駄に綺麗な立ち振る舞いをする長い足を組み替え
た。
「なんだ、リヴァル。もしかして飽きたのか?賭け」
「まさか!ルルーシュと組んでから負けナシだから、ちょーっと怖くなっただけ」
「怖い?」
ほら、勝ち続けって怖いじゃん?いつか災厄が降ってきちゃいそうじゃん?
そう言うとルルーシュは立ち上がった。
「確かに。災厄は付いて回るかもな」
そしてすごく楽しそうな顔をした。実際楽しいんだろう。
「だから辞められないんだろう」
「勇敢だなぁル・ル・は」
言って茶化すと、おまえまでそう呼ぶなと怒られた。
だから辞められないんだと思います。そういうルルーシュを見るのが楽しくて。
こんな楽しい奴ほっとくほど俺は青春を無駄にするバカではないのだ。


遊侠青春謳


チェックメイト、という涼しげな声が聞こえたので読んでいた漫画を置くと頭の禿げかかっ
た貴族が顔を引き攣らせていた。
「終わったぞ」
ルルーシュがこっちを見ているので立ち上がって盤の方に向かう。きちんと綺麗に完全勝利。
「はぁあ助かった」
大きな溜息を吐いたのは固唾を呑んで見守っていた依頼人の方だった。
「はいはい、毎度ぉ」
と俺が手を出すと、一瞬嫌な顔をしたが約束分の金を差し出した。ついついにっこり笑って
ルルーシュを見ると、同じように笑ってくれた。それを数えているとき、がたんと盤を叩く
音がして手を止める。
「いっ、イカサマじゃないか!?」
禿げかかった貴族が叫ぶと依頼人はびくりと肩を震わせた。ルルーシュはきょとんとしてか
ら特に何の感情もないような声で言った。
「まさか。途中から参加して、そんなこと俺にはできませんよ」
謙虚なんだか、バカにしているのか。まぁ、言わずとも後者だが。
優等生スマイルで向かうルルーシュに貴族はびきびきと怒りを露わにしたが、何かを諦めた
ようで椅子に深く沈んだ。
「まったく…アッシュフォードはこんな学生を抱えて」
愚痴をこぼし始まる貴族にルルーシュは笑った。
「こんな学生でもお役に立てるところがあるようですので」
今度はそれを聞いた依頼人の方が訝しがってルルーシュを見た。変に拗らせるのはやめてく
ださい、ほんと。
禿げかかった貴族はそれを聞いて笑い出した。
「ははは、おもしろいな、不敬罪というのを知らないのか」
ルルーシュは立ち上がって、椅子に沈んだ貴族を見下ろす。
「知ってますよ」
一瞬、その声に貴族の表情が止まったが、ルルーシュはまた優等生スマイルに戻った。
貴族は呆けたような顔をしている。
「じゃあ、俺たち午後の授業があるんでこの辺で失礼しまっす。あ、また何かあったら呼ん
でください」
俺は漫画と金をしまってから、全く急ぐ気のないルルーシュの肩を押して部屋から出ていっ
た。
外は午後の光で溢れていて、一瞬目を瞑る。貴族の屋敷はなんであんなに重苦しいのか。
「いやー快勝じゃん。ルルちゃん」
ぽんと肩を叩くと、ルルーシュは溜息を吐いて、こっちを見た。
「だからおまえまでそう呼ぶな」
「あは、ごめんごめん」
「それよりリヴァル、溜まった金で何をするか、思い浮かんだのか?」
ヘルメットを装着しながらルルーシュが言う。
「あー、使い道ね。うーん、悩むよなぁ。盛大な旅行とか?」
「どこ行ったってブリタニアの国旗だらけじゃつまんないだろ」
確かに。
「欲しいものはないのか?」
「んー、強いて言うならバイク?でもそれだと俺だけだからなー」
「そうだ。ちゃんと俺も楽しめることに使え」
「はいはいー、あ、じゃあサイドカーとかは?」
ルルーシュはまさにそのサイドカーに乗ろうとしているところだった。
「これ?」
「そ」
ルルーシュは無言で入り込むと早く出せとでも言いたげな顔でこっちを見た。
「無反応ですか。中古で買ったからボロいんだよ。どーせ誰かを乗せるなら綺麗でカッコイ
イ方がいいだろ?」
まぁ、乗せるのはルルーシュに限ったことじゃないけどな(予定)
と、心の中で後ろに付け加えたのが聞こえたみたいにルルーシュはちらりと睨まれて何かを
言おうと口を開けたとき、がっすんという不吉な音を立ててルルーシュが視界から消えた。
否、サイドカーの後輪がひとつ、外れたのだった。
「は、はいー!?」
思わず叫ぶとばしんと音を立てて屋敷の方からさっきの貴族にさっさと帰れうるさいぞと怒
られた。
ルルーシュはバランスを崩したサイドカーの中でうまく這い上がれずにもがいていた。

「ほんっとうに古いサイドカーだなまったく」
「文句言うなよ…俺まじでへこんでるのに…」
サイドカーはとりあえず、さっきの屋敷に置いてもらって、俺はルルーシュを後ろに乗せて
バイパスを走っていた。
明日、修理道具を持って引き取りに行かなくては…バイト入ってんのになぁもう…。
ちなみに授業にはもうどうせ間に合わないので超ゆっくり運転だ。バイクまで壊れたら泣く
からな。幸い平日の昼間の租界は大した交通量もなく穏やかだった。
「買うのか?新しいの」
「直す…直してみせる…」
いざとなったらニーナを連れていこう。付いてきてくれたらだけど。
「ルルーシュさぁ、太ったんじゃないの?」
「バカ。リヴァルのメンテナンスが足りてないんだろ。そんなに安物だったのか、あれ」
ええ、格安でした。むしろスクラップ寸前を直してあそこまで走れるようにした俺の腕を評
価していただきたい。
「やっぱりサイドカーがないのは辛いな」
「俺だって後ろに乗せるなら彼女って決めてたのに」
「そういうことは恋人ができてから言うんだな」
そう言うとルルーシュはわざと腰に手を回して強く締め付けた。
「くるしーっつーの!」
事故ったらどうする!
「てゆーかさぁ、ルルーシュも免許とって、バイク買えば?そしたらツーリングできるし、
燃費も向上するんですけどー」
「嫌だ。面倒だ。必要ない。それに燃費代は俺が勝った分から出してるだろ、おまえ」
「あら。バレてましたか」
足代ってことでー、と笑う。振り向けないのでわからないが多分、不満気な顔をしている
と思う。意外とケチ。それがルルーシュ・ランペルージ。
まぁ散々言っておきながら、今まで目を瞑っていてくれたところを考えれば、俺もルルーシ
ュをケチ呼ばわりできないのだが。
「もう少しスピード出すかぁ。ちゃんとルルーシュ送り届けないとシャーリーが怒るからな
ぁ。んもー!授業サボって何やってんのよぉ」
「似てるな、それ。でも確かに、生徒会のミーティングに出ないと会長にも怒られるな」
怒られるというか、よくわからない面倒臭い仕事を押し付けられることにはなりそうだ。
「しかし我々、尻に敷かれてますなー」
「会長が会長だからな」
ルルーシュは何かを諦めたような口調で言った。
「いやぁ、敷かれがいのある尻だなー」
「それ言っとくから」
「はああ!?」
思わず振り向きかけたら、ルルーシュがバカ前見ろと本気の声で言った。つまり信号無視だ
ったわけで。運よく他の車も警察もいなかったけど。
5秒ぐらい青ざめたが、後ろからくつくつと堪えきれないような笑い声がして我に返った。
ルルーシュは俺の背中にべったりくっついて笑いを堪えているようだった。
「ヒトの背中で笑うなー!ああもう、絶対サイドカーは直す!そして二度と俺の後ろには乗
せないからなっ!」
これか!これなのか災厄って!!と後ろの男を怨む。
けれど同時に、だから辞められないんだろうなと思った。

いつまで続くか、この青春。

070522











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