3 「は、はあ〜!?」 クラブハウスへ着くとルルーシュとナナリー以外の生徒会メンバーは生徒会室に腰を下ろし た。 事態を把握できないでいるシャーリーにリヴァルが説明すると素っ頓狂な声を上げて手で口 を押さえた。それから小声で続ける。 「そ、そそそそれって痴漢ってことですかぁ…!?」 「う…ん…そうなのかな〜?」 リヴァルは自信なさげに言う。なんとなくつられて小声になってしまった。 「…さ、最悪っ!最低!学園の中ですよ!?」 シャーリーがわなわなと言うとミレイは溜息を吐いた。 「確かに大問題よね…でも学内で生徒が生徒に痴漢って…普通するかしら?こんな限られた トコで…」 「あの、ミレイちゃん…」 端っこに座っていたニーナがおずおずと言い出す。 「それって、女子生徒、を狙ったのかなぁ?」 その言葉に、それぞれ反応する。シャーリーは意味がわからないというような顔をし、リヴ ァルは思い切り眉を寄せて、ミレイは苦笑いを浮かべた。 「そ、それって…ルルーシュだってわかっててやったってこと?」 「え!えぇえ!?」 シャーリーは驚き、リヴァルは無言で聞いた。 「だっ、だってルル、女子の制服着てたから単に一女子として被害を受けたんじゃないんで すか?」 シャーリーの疑問にリヴァルとニーナが答える。 「いやいやいや…ぱっと見ルルーシュだと女子に見えちゃうけど、触ればさすがに男ってわ かるでしょ」 「そうじゃなくても昨日あれだけ宣伝したし…ルルーシュ、普段から目立つほうだし…」 ニーナは言いながら顔が赤くなっていく。 それにつられてシャーリーも紅潮してきた。 「つ、つまり…」 シャーリーの言葉がつまるのにニーナが重ねた。 「つまり、可能性として挙げられるのは」 「女子生徒として被害にあったのか、男だという上で被害にあったのか…」 「もしくはルルーシュだとわかっていてなのか」 「え!」 「だって逆転してんの俺かルルーシュのどっちかだし」 「あと、ルルーシュの女装ってシチュエーションで、その…行動に移ったってことも…」 「ちょ!ちょっとニーナそれ直接的過ぎ!!」 シャーリーが止めると全員、黙り重たい沈黙が続いた。 推論するに、犯人はルルーシュを狙った、というのが一番考えやすい答えだった。そして、 その答えはなぜか納得してしまう。ルルーシュだったら有り得る。そこに納得してしまう。 「それって、ルル、気付いてるのかなぁ…」 ぽつりとシャーリーが沈黙を破るが、それに答える声はない。 ミレイは溜息を吐いた。 まさかこんなことになるとは思っていなかったのだ。少し、ルルーシュがからかわれれば面 白いのにと始めたことだった。 「これじゃあしばらく男女逆転祭は延期ね…」 * * * * * * * * 昼休みで帰ってきたルルーシュとナナリーを見て、咲世子は驚いた。兄妹揃って帰ってきた ということはナナリーの具合が悪くなったのかと思ったら、どうやら付き添われているのは 兄の方で女子制服のままよろよろと青ざめた顔をしている。 「お兄様、貧血を起こしてしまったようで…咲世子さん、あとでお水を持ってきてくれます か?」 心配そうにナナリーが言うのを聞いて、咲世子はルルーシュの様子を窺いながら返事した。 擦れ違う瞬間、ルルーシュと目が合う。「大したことないですから」と呟くと少しだけ、薄 く笑った。 咲世子は力なく歩くその後姿の、強調された目につきやすい靴下とスカートの間の生足を呆 然と見つめてた。 ルルーシュは出かけのときの咲世子の言葉を思い出していた。 “お気をつけて” 控えめに、しかし心配そうに咲世子は言っていた。あれはもしかして、そういう気遣いだっ たのだろうか。女装は危険なのだと、咲世子は心配してくれていたのだろうか。だとしたら 何て気のついたメイドなのだろう。しかし咲世子は朝、女装した姿を見てすでにこのことを 心配していたとなると、それはそれで問題ではないだろうかとルルーシュは眉間に皺を寄せ て苦悶した。 考えるほどにわからなくなってくる。 ルルーシュは男に故意に触られたという事実さえ認めたくなかった。 隣では可愛い妹が心配そうについていてくれる。それすら情けない。 (でも気持ち悪かった…) 思い出しては背筋がぞっとするし、なにしろ触られた場所が気持ち悪い。 シャワーでも浴びて、さっさと忘れよう。なかったことにしよう。ついでにミレイには金輪 際この祭には参加しないことを明白に伝えよう。自分がこんな目に合うということは他のメ ンバーだって危ないのかもしれない。もしナナリーがそんな目に遭ったらどんな手を使って でも必ず復讐する。というかそんなことさせない。絶対に。 「お兄様…大丈夫ですか?」 見下ろすとナナリーが心配そうにしていた。それを見て、また情けない思いにかられたが、 それ以上にナナリーの優しい声にほっとした。 いわゆる痴漢に遭っていたとき、ルルーシュは絶対的な孤独感に襲われたのだ。 (なんて卑劣な犯罪なんだ…) 故に、今の妹の優しさが心に沁みた。 結局、その事件は闇に葬ることが一番穏やかな解決方法だということでルルーシュもミレイ たちも各々、そう結論を出した。これが本当に女子生徒への痴漢行為だったら警察モノだっ たが何せ被害者が男子であり、しかもルルーシュだ。下手に警察の世話にはなれないし、第 一、ルルーシュ自体、犯人の顔など見たくないのだった。それよりも一刻も早く、この事件 を忘れることが一番傷を癒す効果があった。 しかしその後、生徒会はカレンとスザクという新しいメンバーを向かえてミレイが何かイベ ント事をしようと言う頻度はますます増えた。その度にルルーシュは男女逆転祭だけは阻止 せねばと躍起になっている。 しかし最近ではスザクが男女逆転祭に興味を持ちはじめたらしく、自分やリヴァルに聞いて くるのが厄介だ。 そして今日も生徒会室でルルーシュ・ランペルージが溜息を吐く日々は続く。 070610 < |