ルルーシュ・ランペルージの溜息

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『男女逆転祭とは、男子と女子が1日限り互いの役割を演じることによって性差について考
え、平等な社会を築く心を育てようという教育的かつ嗜好的な行事よ!』

ミレイがやたら楽しそうな声で人差し指を立て放送を使って全校生徒に呼びかけたとき、ル
ルーシュとリヴァルはバイク雑誌を見ているところだった。
教室内はにわかにざわめく。また何か、始まったのだと。
「なんじゃそりゃ」
リヴァルは雑誌から顔をあげてルルーシュを見た。
「初耳だな」
「思いつきはいいけどさー。せめて生徒会の人間には教えてほしいよなぁ」
リヴァルがそう言う傍から近くにいた生徒たちが今度は何をするんだと尋ねてくる。とにか
く自分たちは何も聞かされてないから答えられないと喋っていると、スピーカーの向こうで
咳きたてる音がした。
『んーエヘン』
ルルーシュは嫌な予感がする音だな、と思う。
スピーカーの向こうでミレイはにんと笑う。その奥でニーナは心配そうにその様子を見つめ
る。
『と言うわけで、まずは明日1日、生徒会のメンバーでデモンストレーションを行います!』
「はぁ!?」
「明日…?」
ルルーシュやリヴァルの声など聞こえもしないミレイは腰に手をあて宣言する。
『生徒会メンバーが、女子が男子の、男子が女子の制服を着て1日過ごします!そういうわ
けで生徒会メンバーは今日の放課後の会議に絶対出席すること!以上!!』
ぶっつんと放送が切れる音とともに校内は静寂で包まれ、教室内は一気にルルーシュとリヴ
ァルに視線が集まった。

* * * * * * * *

「んも〜!会長ってばそういうことは事前にきちんと言ってくださいよー!あたし教室で質
問攻めにされたんですからぁ!」
「ごめんね、私は一応みんなに言ってからの方がいいんじゃないかって言ったんだけど…」
「たまには生徒会メンバーにもサプライズが必要だと思ったのよ〜」
ミレイはまったく悪びれず、むしろ楽しそうに言葉を弾ませた。
「てゆか平等な社会を築く心を育てるって…何するのかと思ったら制服の交換ってそれただ
のコスプレじゃないですかぁ」
シャーリーは呆れて机に手をつく。
「あら。これだって立派なお勉強よぉ。ニーナは賛成してくれたもんね」
ミレイがニーナを見るとニーナは顔を赤らめて俯いた。
「う、うん…」
「シャーリーだってぇ」
ミレイは人差し指でシャーリーの肩を突っつきながら小声で喋る。
「見たくない?ルルちゃんの、じょ・そ・う」
「あ、あああたしはそんなこと全然…ぜんぜん……」
沈黙。
「あー!今妄想したでしょー!」
「ししししてないですよー!!会長のばかぁ!!」
「それにしても…ルルーシュたち、遅いよね…」
ニーナがぽつりと言うとミレイはシャーリーをいじるのを止めて携帯電話を取り出した。
ぽかんと見つめるシャーリーとニーナをよそにミレイは電話をかける。
「もしもしー?リヴァル?まだ終わらないの?…じゃあ迎えに行きましょうか?え?そうよ。
あったりまえじゃな〜い。あ、ルルちゃんも一緒に来なかったら罰だから!うん!はいはー
い。じゃあ、あと5秒ね、5、4、3…」
瞬間、扉は開いた。
「早かったわねー」
ミレイがにっこり笑った先にはすで疲れきったリヴァルと超絶不機嫌なルルーシュの姿があ
った。

「これさー、俺もする意味あんのぉ?」
「あるわよぉ。世の中色んな趣味の人がいっぱいいるんだから」
リヴァルはミレイが用意してきた女子制服のジャケットを持ち上げながら言うとミレイはに
っこり笑いながら言った。
「やっぱりそういう目的なんですか」
げぇっとリヴァルは溜息を吐く。
「学園生活は楽しく!平等にね!」
ミレイはご満悦でブラウス、スカートを2セット机に並べる。
「ちゃんとニーソックスもあるからね。サイズもたぶん平気よ」
「うげぇ…」
「じゃあ、男子諸君はあっちの部屋で着替えてね〜」
ミレイは言うとリヴァルたちを追いやった。
リヴァルは観念したように苦笑いを浮かべて制服を持つとルルーシュの肩を押して部屋を出
た。
「ルル、ちゃんと着替えますかね」
「大丈夫よ。ちゃーんとリヴァルに言ってあるから。さ、あたしたちもさっさと着替えまし
ょう。だけど心配なのはシャーリーも一緒よぉ」
「え?」
「ちゃんとムネが入るかしら…ねっ」
「ぎゃーどこ触ってんですか会長ー!!」
シャーリーの断末魔を扉の向こうにリヴァルは聞くと、もう一度溜息をついた。
「でもま、楽しそうっちゃ楽しそうだよね、企画としては…」
と言いかけて扉から向き直ってルルーシュを見ると思い切り眉間にしわを寄せて睨まれた。
「どこが、楽しいんだ?」
「まぁまぁ、そう怒るなって。会長命令は絶対!だろ」
それを言うとルルーシュは言葉につまってしまう。
「じゃ、着替えますか」
言ってリヴァルはにっかりと笑った。

「でも男子の制服って実は一度着てみたかったんですよねー」
「なかなかかわいいわよぉ?」
「会長も。お似合いですよ〜?」
「どもども〜。ニーナもちょっとサイズおっきいけどそれはそれで需要があるわっ!」
「あ、ありがとう…」
着替え終わったシャーリーたちは各々品評しつつポーズを取ってみたりして遊んでいる。制
服はミレイが用意しただけあって、シャーリーにはジャストフィット、ニーナは少し大きく
て袖先から指しか見えなかったがミレイの言うとおり、それはそれでかわいらしく仕上がっ
ていた。ミレイはシャーリーとニーナを見て満足そうに頷く。
すると扉が開いてナナリーが入ってきた。
「こんにちは」
「ナナちゃん!」
「今日は何してらっしゃるんですか?…っわ」
ミレイは無言でナナリーの手をとって、制服の生地を触らせた。
「あれ?ミレイさん…ですよね?男の人の制服の触り心地なんですけど…」
「まさか会長…」
「そうよ!ちゃとナナリーの分も用意してあるからね!」
と叫ぶとニーナは箱から中等部の男子制服を取り出した。
ナナリーは何がどうなっているのかわからず、小首を傾げた。シャーリーが事の流れを説明
するとナナリーは驚いてミレイに聞く。
「男女逆転…?じゃあ、お兄様も…」
「そ。お兄様も、よ」
いたずらっぽく笑うとナナリーも思わず笑ってしまった。
そのとき、奥の扉の向こうから声が響いた。
「だっ…ルルーシュ!なんで脱ぐんだよぉ」
「こんなの穿けるかっ!」
その声を聞いて、女子は一同顔を見合わせ、一瞬間があったあと、
「男子ー?着替え終わったー!?」
と聞くや否やミレイは勢いよく扉を開けた。
「わーまだちょっと」
とリヴァルが言うのが遅い、というかミレイが入るのが早く扉は開け放された。窓際を見る
と脱ぎ散らかした床の上でリヴァルとルルーシュが争うようにルルーシュが穿きかけている
…否、脱ぎかけているスカートを引っ張りあっていた。
「なんで入ってくるんですか!!!」
ルルーシュは素早くスカートを穿くとリヴァルは安堵して床に座り込んだ。
「ごめんごめん!でもちゃんと着てくれたじゃな〜い」
「これは…」
「ささ、こっちいらっしゃいな」
ここまで来るとルルーシュも観念し、部屋を出る。
「ルルーシュ…!」
「ナナリー!!」
現れたルルーシュを見て、シャーリーとニーナは声を揃えて感嘆し、一方ルルーシュはそこ
にいるナナリーを見て顔を青くした。
だがナナリーには見えてない、とルルーシュは己を落ち着かせる。
しかし明るい部屋に出てくると自分の格好を嫌でも確認せざるを得なく、泣きたいような気
持ちになってくる。
「ルルーシュ…美脚…」
ニーナがぽそっと言った言葉がルルーシュの眉根を直撃する。
「そんな仏頂面しないでー。美人が台無しよ」
ミレイは明るく言いながらルルーシュを上から下まで眺めた。
痩せ型のルルーシュはスマートに女子制服を着こなしていた。黒のニーソックスとスカート
の間の太腿が眩しい。
本人はそれを気にしてなのか、スカートの裾を引っ張っている。
「ナイスよルルちゃん!さっすがぁ!きゃ・く・せ・ん・びっ」
と言いながらミレイはつつーっとルルーシュの足を下からニーソックスの終わりまで人差し
指でなぞった。
「…ちょっ」
「ちょっと会長!やりすぎですー!!!」
ルルーシュが文句を言う前にシャーリーが顔を赤くして抗議した。ミレイがそちらを見ると
視界に不思議そうな顔をしたナナリーが映り、さすがにまずい、とルルーシュから離れた。
「スカート短いな〜。よくこんなの穿いてられるよ」
リヴァルは本心から不思議がって言う。
「あらぁ。リヴァルも意外と似合うじゃない。髪の毛ちゃんとしたら様になるかもね」
ミレイはじっとリヴァルの髪の具合を見るとリヴァルは苦笑いしつつ後退する。
かくして全員、男女逆転し、ミレイは全員を見回して満足げに笑った。
「うんうん。じゃあ、明日はそれ着て学校に来るのよ!お疲れ解散!」
ミレイの元気な声でその日は終わり、ルルーシュはこっそり溜息をついた。

ルルーシュが着替え終わるとリヴァルは早々と帰って行った。ルルーシュが部屋を出ると窓
際でミレイとナナリーが喋っている。シャーリーとニーナも帰ったようだった。
「あ、お兄様」
ナナリーが笑顔で迎えてくれると心が安らいで、ルルーシュはやっと息をついた。
「ルルーシュ、明日はちゃんとみんなで写真撮らなきゃね!ナナリーも男子の制服着るから!」
「ナナリーも!?会長…」
ルルーシュがミレイを諌めようとするとナナリーが割って入った。
「いいんです、お兄様。私も仲間に入れてくださいな」
こんな不真面目な行事に妹を巻き込みたくなかったルルーシュだがナナリーにそう言われて
しまっては仕方がない。
「私、なんだか懐かしくて」
「懐かしいって?」
ミレイが聞くと、ルルーシュはあからさまに嫌な顔をした。ミレイは気付かないふりをして
ナナリーの話を聞く。
「はい。昔、宮にいた頃、お兄様は何度か女の人用のドレスを着せられていたのです。それ
がもう、ふわふわで、本当にかわいらしかったのでユフィお姉様が嫉妬してしまったぐらい
なのですよ」
「へーユーフェミア皇女殿下が」
「ナナリー…」
ルルーシュは悪気のない妹の昔話を邪魔することもできず、眉間にしわを寄らせていた。
「今日もきっと、お兄様は美しかったんでしょうね」
「ええ、ナナちゃんのお兄様は17歳になった今も女装が完璧なまでに似合ってるわよ」
「会長…」
この言われようなら一言ぐらい文句を言ってもバチは当たらないだろうとルルーシュが口を
開いたときナナリーが言った。
「お兄様、明日のお祭り、楽しくなるといいですね」
そう微笑まれると、もうルルーシュは肯定しかできず、溜息を吐くのを我慢した。
そして宮にいた頃をほんの少し思い出して、そういえばそんな、微笑ましいような出来事も
あったんだな、と心の中で一人言ちた。













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