2 「そういうわけなので」 仕事を終えてきたスザクを加え、改めてミレイは宣言した。 「せっかくあたしが腕に縒りを掛けて作ったお弁当を普通に食べても面白くないから、今日 のルールは誰かに食べさせてもらうこと!です!自分の手で食べた人は罰として他の人の2 倍資料作りをするのよ!わかった?」 「え、えー!」 呆れ返るカレンをよそに、シャーリーは困ったような声を出す。 それはルルーシュに食べさせてもらえるわけであり、食べさせてあげられるわけであり…。 同じような理由でリヴァルも内心喜ぶ。我ながら安い考えだぜ、と嘆きつつ。 「俺はもういいです…」 ルルーシュのげんなりとした声にシャーリーはショックを受ける。 「だいたい食べさせてもらうって…食べさせられるの間違いじゃ」 「お兄様」 ナナリーはルルーシュの言葉の途中で膝の上の皿にあったタコさんウィナーをフォークに刺 すと差し出した。 そしてにっこり微笑む。 「食べていただけますか?」 その手があったわ!とミレイは顔を明るくする。 ルルーシュもナナリーに言われたら断ることができない。さらに控えめに差し出しているナ ナリーが可愛くて仕方ない。 ナナリーの元まで近づくと屈んで、ぱくり、と一口でそれを食べた。 「おいしいですか?」 「ああ。もちろん」 よく考えたら、自分がたまにナナリーにしてやってるのと同じことだな、とルルーシュは思 った。 お返しに、とナナリーにエビフライを食べさせてあげていると後ろから声がした。 「る、ルル!最近ピザばっかりってナナちゃんから聞いて、あの!だから野菜も食べなきゃ ダメだと思うの!」 ずいっと茹でられたアスパラガスをシャーリーに突き出されてルルーシュはきょとんとする。 ピザを食べてるのは俺じゃない、と言ってやりたいのを我慢してそのアスパラを見る。フォ ークに刺さったアスパラは小刻みに揺れている。 やっぱりナナリー以外の人に食べさせてもらうのは訳が違うな、とルルーシュは思ったがシ ャーリーがあまりにも真剣に差し出してくるので断れない。 「さぁ!どうぞ!!」 「は、はい」 語気荒く迫られると、なぜか敬語で答えてルルーシュはアスパラに口を寄せる。 シャーリーはというと、もはや血圧の急上昇が抑えられず過呼吸気味だ。 しかしあっと言う間に、ぱくり、と食べられてしまうと、意外にも呆気ないものであった。 咀嚼するルルーシュを横目に見て、半分残念、半分安堵の溜息をもらした。 「食べさせてもらったらちゃーんとお返ししなきゃだめよ」 「「え」」 シャーリーとルルーシュは同時に反応して、お互いを見た。瞬間、シャーリーの耳はぼっと 赤く染まり、ルルーシュはきょとんとする。スザクはそれを見て、思わず笑うとルルーシュ に言った。 「そうだよ。してもらったら、してあげないと」 なんか変な意味に聞こえるなぁとパニック中のシャーリーとルルーシュ、ナナリー以外のメ ンバーは思ったが口には出さなかった。 ルルーシュもスザクに言われてしまうと、やらないわけにはいかないような気持ちになる。 「じゃあ、どうぞ…」 言ってフォークに小さなコロッケを刺してシャーリーに差し出す。それでもやっぱりナナリ ー以外の人にするのはちょっと違うなと思った。 「あ、あ、い、いただきますっっっ!」 シャーリーはばくっと豪快にコロッケを口に突っ込んで離れた。 もっと味わえばいいのに、と全員がそれぞれ、色々な意味で思ったがシャーリーにはそんな 余裕はなかった。 ルルーシュはシャーリーの行動に一抹の気まずさを感じたが、それがなぜだかわからず見守 っていると横からずいっと塊を差し出された。 ルルーシュが不審に思って顔を向けると炊き込みご飯のおにぎりを持ったスザクがしゃがん でにっこりと微笑んでいた。 「ルルーシュ、主食まだでしょ?」 「スザク…おまえまで」 ルルーシュは呆れて言う。 「おまえこそ何も食べてないじゃないか」 「僕は軍で食べてきちゃったんだ」 「他のやつに食べさせてやれ」 「あらーあたし達だってちゃんと食べてるわよ。はい、ニーナ」 これ見よがしにミレイはニーナに食べさせる。その行動にルルーシュの頬は引き攣る。一体、 なんなんだ。今日は。 ミレイはそんなルルーシュの睨みも気にせず続けた。 「それに、さっきルルちゃんスザクくんがいなくて寂しいって言ってたし、かまってもらえ ばいいじゃなーい」 ウィンクして言うとスザクはきょとんとした。 「な!言ってませんそんなこと!!」 ルルーシュは全力で抗議してスザクの方を勢いよく向いた。 「言ってないから!な!」 その必死さに、スザクは噴出しそうになるのを抑えて微笑み、そのままルルーシュの鼻先に おにぎりを近づけた。 ついルルーシュは寄り目になって、それからその向こうにいるスザクにピントを合わせた。 「食べてくれるよね?」 「あ、あぁ…」 子犬のような瞳で見られるとルルーシュはつい頷いてしまい、それから後悔した。 おかずと違っておにぎりは直に手に持つ上、大きいので一口で食べられない。というかどう 完食したらいいのかわからない。 とりあえず、三角形の頂点を口に含んでみる。口に含んでは咀嚼、これを繰り返す。 「あんまり…見…るな」 じっと見続けるスザクに耐えかねてルルーシュは小声で文句を呟く。 そんなこと聞こえないとでも言うようにスザクは食べるところがなくなっていくと角度や持 ち方を変えて食べやすいようにしていた。 そうしてくうちにどんどんおにぎりは小さくなっていく。 「も、いい…」 もう限界だと言いたげにルルーシュは顔を離した。気付けば至近距離にスザクがいた。 スザクはじっと指の先を見つめて、それから再びルルーシュに向けた。 「まだ、残ってるよ」 さらっと笑って、ご飯粒がついた指先をルルーシュの唇に触れる寸前まで持っていった。 ルルーシュは何を強要されているのか頭が追いつかず、両手を芝生につけたままフリーズす る。その背後ではぎゃいぎゃいと食べさせっこしていた生徒会メンバーも固まっていた。 それは…さすがに…。 ルルーシュが固まっているとスザクは覗き込んで言った。子犬のような瞳で。 「…ダメかな?」 ずるい!!!とシャーリーが憤死しかけたのと同じ瞬間に、ルルーシュは何を思ったか、怖 々スザクの指先に口元を寄せた。 ぱく、という音も聞こえないような触れ方でルルーシュはスザクの指の先端に付いていたご 飯粒だけ掠め取った。 それから瞬時に身をひき、恨めしそうに睨んだ。その瞳にはこれ以上はもうやらないという 断固とした拒否の色がある。 スザクは残されたご飯粒とルルーシュを交互に見て、 「ま、いいか」 というとぱくっと自分で張り付いたご飯粒を食べた。 再び一同は固まり、スザクはそんな皆を見て邪気なない笑顔で笑った。 そして一人、ルルーシュは立ち上がって思いっきり頬を引き攣らせつつ、声高に言い放った。 「かかったなスザク!自分の手で食べた人は罰として他の人の2倍資料作りをするんだぞ!!」 「あ、そっか」 ふふんと勝ったつもりのルルーシュにスザクはうっかりしてたと後頭部に手を置いた。 そんな光景を見ながらミレイ以下、メンバーは何だかんだ言いつつ結局そのスザクの分の資 料作りをルルーシュが手伝うことになるのを悟っていた。 実際、その通りになった。 その様子を眺めながらミレイは昼のゲームはなかなか見物だったと回想し、次は「新婚さん の日」とでも称して大々的にやってみようかしら、などとニーナに相談していた。 こうしてミレイの退屈から生み出されていく行事は増えていくのであった。 070622 < |