シャーリーとリヴァルとニーナは恋に、ミレイは見合い話に、ルルーシュとカレンは黒の騎
士団の活動に、スザクは軍の仕事に、それぞれ密かに葛藤を繰り返しながらも生徒会は平和
であった。これはある晴れた日の、他愛もない一コマである。


ミレイ・アッシュフォードの退屈

1


ここ数日、新歓だ猫祭りだと本来の生徒会の仕事を疎かにしておいたツケが回ってきたのか、
この日は軍の仕事でスザク以外のメンバーは生徒総会の資料作りに汗を流していた。
「どうしてもっと早くに気付かなかったんですか」
「ほんとどうしてもっと早く気付かなかったんですかぁ!」
「ホチキスの芯がねぇ!」
「これ…生徒全員分作るの…?」
「ごめんね、ミレイちゃんの机の上にメモがあったのは気づいてたんだけど…」
「まーまーいいじゃない!前日までに気付いたんだからぁ!」
だからって日曜出勤(?)はない、と誰もが思った。もちろんミレイ自身もだ。
「だいたい会長、今日お見合いするって言ってませんでした?」
ルルーシュが呆れながらも尋ねるとミレイは気まずげに視線を逸らして明るく言った。
「あぁ!それはねぇ延期にしてもらったわ。自分の見合いよりみんなの幸せよっ、ねっ!」
ミレイは人差し指を立てて同意を求めて見渡したが、じっとりとした眼差しで見返された。
「あは…そうね、悪かったわ。悪かったので今日はわたくしお弁当を作って参りました〜!」
言ってバスケットを取り出し、机の上に置くと全員の視線が集まった。
…午後もやるのか。
そんな呟きをもらしたかったが、終わるまでは帰れない。
うんざりした空気の中、リヴァルだけがこっそりと喜んだ。

間もなく昼食になった。折角だから気分転換に外で食べようということで中庭に出る。日曜
なので活動しているクラブも少なく、鳥の声が聞こえるほどだ。
「いい天気ねぇ」
空を仰いでミレイが呟く。リヴァルはその後姿を見て、まさか、見合いを放棄するための計
画だったんじゃないかと推察する。
「わぁ、これって全部会長がつくったんですか?」
「ほんと…おいしそう…」
カレンとシャーリーはお弁当を広げながら感嘆した。ピクニックシートをひいて並べるとち
ょっとしたパーティー並に見栄えした。
「まぁ、あたしが2割、お手伝いさんが8割ってとこかしら?カレンさんも遠慮なく食べてね。
健康は食が大切よ」
「…あ、ありがとうございます」
「ミレイさん」
遠慮がちにカレンが答えると背後から聞きなれた声がした。
ルルーシュがナナリーを乗せた車椅子を引いてやってくる。
「ナナリー!」
「すいません。わたし何もしてないのにお昼だけ呼んでもらって…」
「いいのいいの!せっかく作ったんだからみんなに食べてほしいのよ」
ありがとうございます、とナナリーはにっこり笑ってルルーシュは車椅子を止めた。
芝生の上に置かれたおかずをシャーリーは紙皿の上に取ってあげてナナリーに渡す。
「スザクくんも来れればよかったのにね。大学にいるんだったらお昼だけでも…」
シャーリーが残念げに言うとルルーシュはリヴァルの隣に腰を下ろしながら答えた。
「軍に日曜も何もないからな。…忙しいんだろ」
なんとなくルルーシュ以外の全員には、それが吐き捨てるように聞こえて一瞬思考をめぐら
せた。
「なになにー?スザクくんがいないと寂しいの〜?」
「そうなの?ルル。だったら普段ちゃんと学校に来て生徒会にも参加すればいいのにー。さ
ぼってばっかはルルも一緒なんだからお互い様でしょー」
「この間、電話してたとき、スザクくん心なし、寂しそうだったよね…」
「そうだよルルーシュ〜!おまえ最近さぼりすぎ!」
ミレイの発言がキッカケとなり次々と言われまくるルルーシュは隣のリヴァルに肩をばんば
ん叩かれながら眉を寄せあげた。
なぜこんな言われ方をされなければならない。大体誰も寂しいなんて言ってない。
非難(?)を浴びる兄の姿をナナリーは楽しげに見ていた。
「皆さんの言うとおりですよ、お兄様。もっとおうちにいてくださいね」
本気ではないがナナリーにそう言われてしまっては何も反論できない。しかし寂しいなんて
一言も言ってないぞ、とルルーシュはリヴァルに肩を揺すられながら思った。
わいわいとどつかれるルルーシュを呆然と見ながらカレンが言った。
「スザク…くん…て、軍で何してるの?」
「え?…と、技術部らしいぞ」
「そう…」
とカレンは目を逸らす。やはり本当の姿は黒の騎士団のエースパイロット。スザクは技術部
だろうが敵にはかわらない。ルルーシュはほんの少しだけ、自分の胸に針が刺さるような思
いがした、その時。
「んぐっ!」
急に顎を掴まれて上を向かされたルルーシュは閉じていた口に何か乾いたものを押し付けら
れた。
目の前にはいつの間にか膝たちになったミレイが邪悪な笑みを浮かべながら器用に箸でつま
んだ卵焼きを無理矢理ルルーシュの口に押し付けている。
突然の行動に全員しばし呆然としているとミレイは目を光らせ、不気味に笑った。
「さぁルルちゃん!あたしが作った卵焼きよ!よぉく噛んで食べなさーい」
「…ふ、普通に食べっ」
やっとの思いでルルーシュが言うとミレイは更に笑った。
「ダメダメ。そんなのおもしろくないもの。リヴァル!後ろからルルーシュを羽交い絞めに
するのよ!はいルルちゃんアーン」
語尾にハートマークを付けながら命令する声は厳しかった。
「い、嫌ですよ!なんでこんな」
ルルーシュが後ろへ逃げようとすると背後から腕が伸びてきた。
「リヴァル!」
「悪いルルーシュ!俺は会長には逆らえないんだ!」
そしておまえのポジションは実はかなり羨ましいんだ!と心の中で付け足した。
シャーリーたちは呆気に取られて見つめるしかない。ナナリーだけが何があったのかよくわ
からずにいる。
無理強いをされると余計に食べてやるものかとルルーシュの反逆精神は燃える、が、相手が
ミレイだとなかなかそうはいかない。なんとかなっていたら男女逆転も猫祭りも実際に起こ
るわけないのだから。
「ほーらほらさっさと食べちゃいなさ〜い。楽にな・る・わ・よ」
悪代官のような口調で追い詰められるが、ルルーシュは懇親の力で首を横に向け卵焼きから
逃げる。
「逃げようったってそうはいかないわ!カレン!ルルーシュの頭を押さえてっ」
「「えぇっ!?」」
叫んだのはカレン、そしてシャーリーだった。シャーリーがばっとカレンを見て、カレンは
また変なこと考えてる!と瞬時に悟った。
「早く!」
「は…はいっ」
しかし急かされると反射的にルルーシュとそれを羽交い絞めにしているリヴァルの後ろに立
ってルルーシュの頭をがっちりと前に向けた。
「!!」
これが予想外の力であり、ルルーシュは前を向かざるを得えず、驚いた隙に口元が緩んだ。
「チャーンス!」
ミレイは嬉しそうに叫んでルルーシュの口内に卵焼きを突っ込んだ。
「んんっ…ぅ!…ぅぐ」
しばらくして、ごくり、と反り返ったルルーシュの喉が動いたのを見てミレイはふうっと満
足げな溜息を吐き、リヴァルとカレンもぐったりとルルーシュから力を抜く。
そしてその時、どさりと芝生の上に何かが落ちる音を全員が聞いた。
そこには柩木スザクが立っていた。足元にはバッグが落ちている。
「なに…してるんですか?」
呆然と立つその瞳には膝の上をミレイに乗っかられ、後ろから二人に拘束されて、息絶え絶
えになりながら口を押さえて胸を上下させているルルーシュが映っていた。
ミレイは口元に人差し指を添えて、なるべくチャーミングに言った。
「えっと…陵辱プレイ?」
青空とは裏腹なその言葉にスザクは再び真っ白になる。
ルルーシュは酸欠状態の頭で変な単語をナナリーに聞かせるなと本気で思った。












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