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「えっと…ルルーシュくん、だったよね?文化部のほうをお願いできますか?」
パソコンに打ち込みをしていると、シャーリーがルルーシュに向けて言った。変に気を遣っ
た言い方で、違和感を感じる。
二人はどうやら他人のふりをしているらしく、リヴァル曰くルルーシュがシャーリーに何か
したらしい。何かっていうのは…私はわからないんだけど。
それにしても、シャーリーはあんなにルルーシュのことが好きなのに、どうやったらあんな
に怒らせることができたのだろう、ルルーシュは。
好きな人に話しかけられたら絶対、笑顔になるか困るかするのに、あのあまりにも冷静な態
度には驚いてしまう。
もうシャーリーはルルーシュのことが好きじゃないのかな。そんなことないよね、あんなに
好きだったのに。…やっぱり、お父さんが亡くなったことと、関係あるのかな?どう関係あ
るのかわからないけど、でも、そんな大事件があったら、きっと何か変わってしまうのだろ
う。その気持ちはわからなくないけど…。
「行ってきます」
ルルーシュはいつものように無表情でそう言って部屋を出ていった。でも、やっぱり少し、
寂しそうに見える。
扉が閉まるとミレイちゃんとリヴァルが“他人ごっこ”を始めた。
ちゃんと聞いたことないけどリヴァルはミレイちゃんのことが好きなんだと思う。
途中でカレンとスザクが入ってきて、邪魔されていた。
カレンはルルーシュのことが好きなのかも、って、シャーリーが言ってたけど…違うと思う
けどなぁ。カレンはもっと、別の人がいるんじゃないかしら、なんて推測だけど。のめり込
んでるゲームがあるって前にルルーシュが言ってたし、その関係で何かあるんじゃないかな。
スザクは…どうなんだろう。スザクも、ユーフェミア様のこと好きなのかな…。スザクのこ
とはよくわからない。良い人だってことはわかってるけどイレブンだし…。
「話の続きって、どこまでいったんだっけ?ニーナ」
「えっと、例えば俺の…」
他人ごっこを再開したミレイちゃんとリヴァルに助言して、席を立った。リヴァルはなんだ
か慌ててるけど、大丈夫、気にしてないよ。
慌ててるリヴァルの顔が面白くて思わず笑ってしまいそうになる。
生徒会があってよかったな。そうじゃなきゃ、きっとエリア11での日々なんて苦しいだけ
だったはず。
「じゃあ、私、午後の授業の準備しなきゃ」
道具を持って部屋を出る。授業まではもう少しありそうだった。
ゆっくりと教室へ向かって歩いていると渡り廊下にルルーシュを見つけた。
渡り廊下の欄干に肘をついて、下を眺めている。何かを眺めているようだった。
こういうとき、声を掛けていいのかわからなくなってしまう。
元々、引っ込み思案であまり人に声を掛けるようなタイプではないし、どうしてか、私なん
かが声を掛けてしまっていいのかと考えてしまう。特に、ルルーシュには。
彼は独特な空気があって、それは人を寄せ付けないようにしている。ルルーシュ本人は本当
は面白くて、良い人なんだけど、たまに畏れてしまうときがある。どうしてだろう。
だけど何故か、今、私は渡り廊下に立って、ルルーシュに声を掛けようとしていた。
「…ル」
言いながら、その目線の先を辿ってみると、そこにはシャーリーの姿があった。
配布物を配り終わったようで、校舎へ向かっているところのようだ。
シャーリーを見つめるルルーシュの瞳は、哀しんでいるような、寂しがっているような、そ
れでいて、何かを諦めているような色をしている。
「ルルーシュ…」
呟くとルルーシュはふいをつかれたようにこちらに顔を向けて、私を確認すると笑った。
「ニーナ。ああ、もうすぐ授業か」
腕時計を見て、こちらに近づいてくる。
さっきまで纏っていた空気を全部仕舞い込んで、なんでもないようにルルーシュは話してい
る。
シャーリーとルルーシュのケンカなんか、きっとすぐに終わるはずだってみんなでそう言っ
てたけど、本当かな。
本当は、もう何かが失われているんじゃないだろうか。
その何かをルルーシュは知っていて、そしてもう、戻れないことをわかっているのではない
か。
それは何だろう?シャーリーの気持ち?それともルルーシュ?
「ニーナ?教室、行かないのか?」
「ルルーシュ、」

「ケンカは、よくないよ」

呆れるぐらい子どもじみたセリフ。そんなことを言ってもルルーシュに私の言葉なんて、届
かないことなんて知っているのに、何故かそう言ってしまった。
けれどルルーシュは一瞬、虚を突かれたように目を丸くして、それからまた笑った。
「ケンカなんかじゃないさ」
そして私の隣を通り過ぎていく。
私は一度頷き、どうしてか込み上げてきた涙を我慢して、その背中の後を追った。

070704











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