[PR] この広告は3ヶ月以上更新がないため表示されています。
ホームページを更新後24時間以内に表示されなくなります。
風と街 「結婚式、かぁ」 「ちっくしょー!扇のやつ~!俺の知らないところで巨乳美人ゲットしてるなんてよぉ~!!」 「結婚…」 「しかもでき婚かよぉ!あいつぼーっとしてるくせにホンットやることやってんだからなぁ」 「ウェディングドレス…ジューンブライド…」 「ちっくしょー!!!」 「玉城さんちょっと黙ってよ!!!!」 扇さんが結婚する。相手はブリタニア人で、結構美人だ。 『え~とこいつは紅月カレン。俺の親友の妹で、俺にとっても妹みたいなもんだ』 照れながら紹介する扇さんに彼女は終始苦笑いだった。私も苦笑いだ。 だってとっくの昔に知り合いだった。ナイトメアフレームのパイロットとして。 しかし今日から私は彼女にとって、夫の妹みたいなもん、という存在になる。 どうして扇さんだけこんなに呑気に私を紹介できるのか、その神経に疑問を持ったけど、案外 彼女も気を張ったところはなかった。 『よろしく。カレン』 戦争中、たった一度も見せなかった彼女の笑顔を見た。 ああ、戦争は終わったんだと、彼女のはにかんだ笑顔を見て、肩の力が抜けていった。 (結婚式…何着ようかなぁ) それからどうもぼんやりしてしまう。 そして何故か、あの女のことを思い出した。 不可解な存在。記号みたいな名前の女。 随分、長いこと一緒にいたような気がするのは何故なんだろう。 神楽耶様から聞いた話だと、あの女は生き伸びて、どこかに消えっていったらしい。 今もきっとどこかで生きているんだ。あの魔女みたいな女。 わがままな性格どおり、我儘に生きていくんだ。 それからやっと気付く。結構楽しかったんだ、あの女と話す時間は。 憎らしかったのは、きっとライバルだったから。 (ああ、あいつだったら結婚式に何を着ていくんだろう) 「ちっくしょぉぉぉ…」 「玉城さん、飲みすぎ。昼間っから」 親友が結婚するってこんな感じなのかしら。昼間っから酒飲んでぱーっとやりたい感じなのか な。 席を立つ。 「カレン~どーこ行くんだよぉ」 「買い物!玉城さんもスーツ新調しましょうよ!」 「あー?」 何もこんなところで玉城さんの相手してなくてもいいよね。 私は私なりに扇さんと彼女の結婚を受け止めて歩いていかなきゃ。 外に出る。眩しさに眩暈がする。 賑やかな街の音。建物を修理する金属音。子どもたちが路地を駆けていく音。土ぼこり。車の クラクション。噂話に笑い声をあげるおばさんたち。汗をかきながら走っていくサラリーマン。 すべての失われていたものが、再生していく音。 ふとした瞬間に思い出す、あなたの影。 そして真っ青な空。 聞こえる? まだあなたのことを思い出すけど。 私は走り出す。 街に、新しい風が流れる。 070820 < |